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「AIを使うと手抜きに見える」空気をどう変える?|社内AI定着に向けた評価の見直し

社内に生成AIを導入し、ライセンスも配布した。それなのに、実際には日常的に使っている社員は一部にとどまります——。利用が広がらず実態も見えにくい「静かな不定着」に直面する企業もあります。原因を「操作が難しい」「研修が足りない」と考え、ツールの乗り換えや追加研修に走りがちです。操作性や研修だけでは説明しきれない場合、要因の一つが「AIを使うと評価が下がるのではないか」という不安です。

2025年に発表された研究は、AIを使う人が職場で「怠けている」「能力が低い」と評価される傾向や、本人がそう予期する傾向を、複数の実験で示しています[1]。AI利用者への否定的な評価や、使用を知られることへの不安を、本記事では便宜上「AIスティグマ」と呼び、社内AIの定着を妨げうる仮説として扱います(研究で用いられた用語ではなく、説明のための呼称です)。ここでいう評価の見直しは人事評価制度の変更ではなく、職場での見られ方や試行時の評価軸の調整を指します。利用実態の把握から小さな検証までの進め方を示します。

社内AIが「静かに定着しない」ときに検討したい要因

利用が広がらないときは、操作性や研修だけでなく、社員が利用をためらう背景にも目を向ける必要があります。

操作・研修以外にも目を向ける

従業員1,000人以上の企業で生成AIの導入・活用を推進し、PoCを経験した担当者への調査(有効回答111人。設問ごとに回答者数は異なり、企業一般は代表しない)では、回答者の50.5%が「全社的に活用が定着している」と答えました[2]。定着に至っていない回答者が挙げる理由では「社内データと未接続」などの技術要因が上位で(最多52.7%)、効果を定量的に測定できている人は36.0%にとどまります[2]。

この調査だけでは定着しない原因は特定できません。一方、効果を定量的に測定できている回答者が限られることから、効果測定が課題となっている可能性があります。

AIを使っていても、利用を開示しにくいと感じる人がいる

見落とされがちなのが、利用者自身の心理です。MicrosoftとLinkedInが世界31カ国で実施した2024年の調査では、職場でAIを使う回答者の52%が重要な業務での利用を認めることに抵抗を感じていました。また、職場でAIを使う回答者の53%は、重要な業務でAIを使うと「替えのきく存在」と見られることを懸念していました(日本のみを対象とした調査ではありません)[3]。この調査は社内AIの利用状況を直接示すものではありませんが、把握されないAI利用がある可能性を示します。

開示しにくい状況があると、管理側から利用実態が見えにくくなります。「使われていない」のか「使われているが見えていない」のかは、まず分けて捉える必要があります。無断利用が禁止では止まらない背景はシャドーAIは禁止では消えないも参考になります。

AI利用者への否定的評価は、どのように生じるのか

なぜ利用を開示しにくいのでしょうか。背景には、複数の事前登録実験で示された評価の偏りがあります。

怠けている・能力が低いと評価される傾向——4,400人超の実験

米デューク大学による4つの事前登録実験(計4,439人)では[1]、AIの助けを得た人は、人から助けを得た人や支援の有無が示されない人と比べ、怠惰で、能力や勤勉さに欠けると評価される傾向が示されました[1]。当事者自身もそう予期し、AI利用を開示しにくいと考える傾向も示されました。

一方、一般化には限界があります。評価者と対象者に面識のないオンライン実験のため、職場で同じ評価が生じるかは判断できません[1]。

実験で評価差が弱まった条件

評価実験では、AI利用者を怠惰とみなす傾向が弱まる条件も示されました[1]。第一に、個人宛てメール作成を想定した実験では、AIを使う候補者と従来ツールの候補者で、タスク適合性の評価に有意差が見られませんでした(評価上の不利がすべて消えたわけではありません)[1]。第二に、評価する側がAIを定期的に使う場合(週1回未満の利用者との比較)、相手を「怠惰」と判断しにくい傾向がありました[1]。一方、手書きメモ作成を想定した実験では、AIを使う人が従来ツール利用者より低く評価されました[1]。

裏を返せば、AI利用を自然な選択肢の一つとして扱う文脈をつくり、AIを定期的に使う評価者が増えれば、このバイアスは弱まる可能性があります。

評価への不安を確かめ、AI利用を安心して開示できる環境を試す

研究で示された評価差の条件を手がかりに、社内で試せる対策を考えます。ただし効果は各社の業務や職場環境に応じて検証が必要です。

AI利用を特別扱いせず、適用条件を明確にする

第一の打ち手は、AI利用を特別扱いせず通常の作業に組み込むことです。研究では個人宛てメール作成を想定した実験で評価差が見られず[1]、実務で試す案として業務マニュアルや標準手順にAI利用を位置づけ、「使うか」でなく「どう使うか」を問う状態にします。

ただし前提化は、効果とリスクを検証した対象業務に限ります。その範囲ではAIを使う場合の標準手順を定め、「使ったか」ではなく、手順を守って品質を満たせたかを業務プロセスの検証項目にします。これは利用者個人の人事評価ではありません。また、使わないほうがよい場面では、その判断も認めます。

利用回数ではなく、業務成果と安全な運用を検証する

第二の打ち手は、評価の軸を「AIを使ったか否か」からアウトプットの質やスピードへ移すことです。AI利用を開示しにくい背景には、使った事実が評価に響くという不安もありえます[1][3]。ただし理由はこれに限らないため、社内で確かめる必要があります。だからこそ「使ったか否か」ではなく、成果の質・効率に加え、適切な確認やルール順守まで含めて検証すれば、利用を隠す動機を弱められる可能性があります。小さく試すなら、次の手順が目安です。

  1. 利用状況を匿名で把握する(「使っていない/会社が提供するAI/それ以外のAI」を区別し(承認状況は別に確認)、使わない理由も聞く。結果は個人評価や個人特定に使わないと伝え、回答の閲覧者・保存期間も事前に示し、少人数部署は集計単位に配慮する)。
  2. 対象業務を一つ選ぶ(議事録作成など範囲を限定でき、確認責任者を置けるもの)。
  3. 導入前の基準を記録する(作業時間・修正回数・誤り・レビュー時間)。
  4. 利用ルールを明文化する(入力禁止情報・確認責任者・記録が必要な場面)。
  5. 期間を決めて試す(たとえば6週間。試行中は利用回数を個人評価に使わない)。
  6. 導入前後で比較する(業務量や対象タスクをそろえ、繁忙期などAI以外の要因も記録。品質・手戻り・リスクも見て、改善しなければ別の要因も確認)。

成功基準は試行前に自社で決めます。「作業時間が短くても重大な誤りやレビュー負荷が増えたら成功としない」と定めれば、単なる時短を成功と誤認しにくくなります。

効果を数字で捉えるには利用ログの可視化も役立ちますが、個人監視と受け取られれば逆効果です。個人評価ではなく業務別・部門別で集計し(少人数部署は個人が推測されうるため集計に注意)、記録の目的と閲覧者は試行前に説明します。ログで分からない「使わない理由」は匿名把握で補います(可視化の方法も参考に)。

管理職が「評価する側」から空気を変える

評価の空気づくりには現場の管理職をはじめ複数の立場が関わり、管理職の日常の振る舞いは職場のバイアスの強さに影響しえます。

評価者自身のAI経験が、評価に関係する可能性

実験では、評価する側のAI経験がAI利用者への評価と関係していました[1]。管理職が率先して使うことは評価者自身の利用を促す実務上の案ですが、職場でも評価の傾向が変わるかは検証が必要です。勧めるだけでは不十分で、誤りの確認方法や使わない判断も共有すると、部下は安心できます。

具体策は全社展開が進む組織は管理職が動いているもご覧ください。

研修やツール改善に加え、評価の不安も確かめる

ここまでの打ち手は、研修や技術改善を否定しません。AIスティグマは定着しない唯一の原因ではなく、データ未接続などの技術要因[2]とも併存します。それでも評価の不安を放置すれば、優れたツールを入れても利用が水面下に潜るおそれがあります。

利用を前提化し、成果で評価し、管理職が範を示す——この三つを効果を測りながら見直すことが、AI利用を安心して申告できる環境づくりの糸口です。「導入したのに成果が出ない」という手詰まりも、評価の構造が確認すべき要因の一つです。

さいごに

社内AIが広がらない背景には、AI利用への否定的な評価や、利用を認めることへの不安が影響している可能性があります[1][3]。ただし実際に隠されているかは、社内で確かめる必要があります。

必要なのは、評価の設計を見直すことです。リスクを管理できる業務を一つ選んで試し、試行中は利用回数を個人評価に使わず、試行後は品質・手戻り・確認負荷も見て判断します。定着とは利用を強制することではなく、適切な環境とルールのもとで安心して使え、成果を確かめながら改善できる状態をつくることです。

出典

この記事を書いた人

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m-koshihara

ソリューションサービス事業部

5年以上Webアプリ開発に従事したのち、2023年よりSGCの導入を担当。法人向け生成AI活用について、導入や業務活用の視点から発信しています。

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