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生成AI導入で業務時間が減らない4つの理由|業務フロー再設計の進め方

生成AI導入で個人レベルのタスク削減は進んでいるものの、業務全体の時間削減につながりにくい現象が見られます。パーソル総合研究所の調査によれば、生成AIを活用したタスクで平均16.7%の時間削減を実現したものの、実際に業務時間が減少したのは利用者の約25%にとどまっています[1]。McKinseyの2026年調査でも、回答者の80%がAIによる個人の生産性向上を実感する一方、AIの利用がEBITに少なくとも一定のプラスの影響を与えたと回答した組織は37%でした[2]。個々の作業が速くなっても、必ずしも組織全体の成果につながるとは限りません。本記事では、業務時間が減らない4つの理由と業務フロー再設計の進め方を解説します。

業務時間が減らない4つの理由

理由1:既存の業務フローにAIを追加しただけになっている

生成AIを既存業務に「追加」するだけでは、業務全体の時間削減につながりにくい構造があります。例えば、AIが生成した文書を従来と同じ承認フローで回せば、承認にかかる時間は変わりません。AIが作成した資料を人間が一から確認・修正する運用では、かえって確認作業が増えることもあります。AI導入前の工程がそのまま残っていれば、個々の作業が速くなっても、業務全体のリードタイムは短縮されません。

理由2:確認・承認の基準が変わっていない

AI導入は、ツールを配布するだけでは成果につながりません。業務の目的、担当者の役割、品質基準、承認ルールまで含めて見直す必要があります。

AIの出力には誤りが含まれる可能性があるため、人間による確認は必要です。しかし、AIの出力リスクに応じた確認基準を設けないまま、すべての出力を従来と同じ手順・粒度で確認すると、AIで短縮した時間がレビュー作業に吸収されます。

BCGがコンサルタントを対象に行った実験では、生成AIの能力範囲内にあるタスクでは成果が向上した一方、能力範囲外の問題解決タスクでは、GPT-4を利用した参加者の成績が、利用しなかった参加者より23%低下しました[3]。生成AIの適用範囲を見極めずに利用すると、かえって成果を損なう可能性があります。

理由3:タスクや部門単位の部分最適にとどまっている

個別業務の効率化だけでは、業務全体の時間は減りません。McKinseyの調査では、検証した25の組織的要因のうち、ワークフローの再設計が、生成AIによるEBITへの影響と最も強く関連していました。一方、生成AIを利用する企業のうち、少なくとも一部のワークフローを抜本的に再設計した割合は21%にとどまっています[4]。

この背景には、部門ごとに個別最適を図る結果、前工程・後工程が変わらずボトルネックが移動するだけという構造があります。例えば、議事録作成が速くなっても、議事録の承認フローが従来通りなら全体の時間は変わりません。部署間の連携プロセスが従来のままであれば、同様に業務全体の時間は短縮されません。

理由4:成果物と業務のゴールが再定義されていない

業務の「ゴール」と「成果物」が再定義されていないことも問題です。AI導入によって何を変えるのかが不明確なままでは、個々の作業時間が短くなっても、業務全体の成果を適切に評価できません。

実務上は、従来通りの「完璧な成果物」を求め続けるケースが見られます。成果物の用途と、誤りが生じた場合の影響を踏まえ、必要な品質水準を定義する必要があります。すべての成果物に一律の完成度を求めるのではなく、下書き、社内参考、社外提出など、用途ごとに確認基準を変えることが重要です。中間成果物の必要性まで見直さなければ、AI導入で生まれた時間が、新たな確認作業に吸収される可能性があります。

生成AIで生まれた時間を何に使うか決めていないことも、業務時間が減らない要因です。パーソル総合研究所の調査では、削減された時間の61.2%が仕事に再投下され、その中心は日常業務でした[1]。AI導入のKPIを「1件当たりの作業時間」だけにすると、空いた時間に別のタスクが追加され、総労働時間は変わらない可能性があります。

時間削減を目的とする場合は、残業時間や総工数まで減らすのか、同じ時間で処理件数を増やすのか、より付加価値の高い業務へ時間を再配分するのかを、導入前に決める必要があります。

IPAの「DX動向2026」では、国内企業でAI導入が広がっている一方、活用目的や効果は業務効率化・迅速化が中心であり、企業価値創出やビジネス変革への展開は限定的だと報告されています[5]。AIを個別作業の効率化にとどめず、業務プロセスや組織の変革につなげられるかが課題です。

業務フロー再設計の進め方

現状業務プロセスの可視化とボトルネック特定

業務フロー再設計の第一歩は、現状業務プロセスを正確に把握することです。業務フローの再設計は、一般に次の3段階で進めます。まず現状の業務を可視化する「As-Is分析」、次にAI活用を前提に理想の業務を描く「To-Be設計」、最後に現状から理想へ移行するための「ロードマップ策定」です。

現状業務プロセスの可視化では、業務フローを図式化し、開始から終了までのすべての工程を洗い出します。各工程の所要時間、担当者、承認者を明記し、「なぜこの工程が必要なのか」を問い直すことが重要です。手順が文書化されておらず、担当者の経験や判断に依存している業務では、ベテラン社員へのヒアリングも必要です。部署間の調整、事前確認、承認待ちなど、フロー図には現れにくい工程も可視化します。

ボトルネックと無駄の特定では、最も時間がかかっている工程、複数の承認が必要な工程の必要性、同じ情報を複数の場所に入力していないか、「念のため」で行っている工程はないか、といった点を確認します。業務プロセスを可視化した後は、まず不要な工程や重複作業を減らし、そのうえで残った工程にAIを適用します。不要な業務をAIで高速化しても、業務全体の成果にはつながりにくいためです。

デロイト トーマツが、内部監査・J-SOX評価向けの独自アプリケーションを対象案件20件で検証した結果、AIエージェントを適用した証憑評価・調書作成の工数が50%以上削減されました[6]。この検証では、削減された工数を、リスク対応の強化、不備の真因分析、被監査部門とのコミュニケーション深化といった高度な業務へ再投下することが想定されています。AI導入では、時間削減だけでなく、生まれた時間の再配分まで設計することの重要性が示唆されます。

AI活用を前提とした理想プロセスの設計と段階的展開

前述のBCGの研究が示すように、生成AIの効果は適用するタスクによって異なります。そのため、理想プロセスの設計では、AIが支援・自動化する工程、人間が最終責任を担う工程、削減・統合する工程を明確に区別します[3]。

入出力の条件が明確で、反復性が高く、結果を検証できる工程(情報収集、パターン認識、下書き作成、データ抽出など)はAIによる自動化・支援の候補です。一方、法的・経営的な責任を伴う判断、例外対応、利害調整、誤りの影響が大きい業務は、人間が最終責任を担います。

法令、契約、内部統制上の要件を確認したうえで、形骸化した承認、目的が重複する二重チェック、利用されていない中間報告などを削減・統合します。

成果物と品質基準の再定義も重要です。この成果物は本当に必要か、この形式は本当に必要か(Excelでまとめる必要があるのか、メールで十分ではないか)、この中間報告は本当に必要か、といった問いを立てる必要があります。

段階的な展開では、パイロット部門の選定、小規模実証(PoC)、フィードバック収集と改善、全社展開という手順を踏みます。PoCでは、対象業務、評価指標、実施期間、終了条件をあらかじめ設定します。一定期間の検証を通じて定量的な効果測定と現場からのフィードバック収集を行い、改善点を整理したうえで全社展開の可否を判断します。KPIには、対象業務の処理時間、承認待ちを含むリードタイム、手戻り件数、利用率、出力の修正率などを設定します。加えて、経営層がAI活用の優先順位を明確にし、業務部門、IT部門、法務・セキュリティ部門が連携できる推進体制を整えることも重要です。

さいごに

生成AI導入で業務時間が減らない現象は、技術だけでなく経営・組織設計の問題でもあります。本記事で示した4つの理由――既存業務フローへのAIの追加、確認・承認基準の未変更、タスクや部門単位の部分最適、成果物と業務ゴールの未再定義――は、いずれも経営層の意思決定と業務フロー全体の見直しに関係しています。

AI導入前に業務プロセスを可視化し、ボトルネックを特定することが重要です。さらに、AIが支援・自動化する工程と、人間が最終責任を担う工程を明確に区別し、成果物と品質基準を再定義することで、業務全体のリードタイムや総工数を削減できる可能性が高まります。AI導入は、既存業務の効率化ツールとしての活用にとどめず、業務フロー全体を見直す契機として位置づけるべきです。

業務フローを再設計しても、新しい手順を各部門の運用に定着させられなければ、全社的な成果にはつながりません。再設計した業務を継続的に運用するには、利用シナリオ、参照する社内情報、権限、利用状況を共通の基盤で管理する方法があります。

企業向け生成AIアシスタント「Smart Generative Chat(SGC)」は、社内文書を検索して回答に反映するRAG、利用者・グループ別の権限設定、業務別シナリオの標準化、利用コストの可視化に対応しています。また、RAG検索や条件分岐などを組み合わせ、再設計した業務プロセスを実行するワークフローも構築できます。

全社AI活用の標準化や、再設計した業務フローの運用基盤を検討している方は、Smart Generative Chatの機能をご確認ください。

Smart Generative Chatの機能を詳しく見る

出典

この記事を書いた人

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m-koshihara

ソリューションサービス事業部

5年以上Webアプリ開発に従事したのち、2023年よりSGCの導入を担当。法人向け生成AI活用について、導入や業務活用の視点から発信しています。

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