「月次決算がいつまでも締まらない」――経理部門から聞こえるこの声は、IT部門やDX推進部門にとっても無視できない課題です。月次決算は経営判断の基盤であり、タイムリーな意思決定を支える重要なプロセスです。月次決算に10営業日以上かかり、経営数値をタイムリーに把握できないことに課題を感じている企業もあるのではないでしょうか。
本稿では、月次決算が長引く3つの壁と、それを解消して業務を短縮する実践法を解説します。月次決算の早期化では、まず自社の現状日数とボトルネックを把握し、段階的に締め日を前倒しすることが重要です。
月次決算が遅れる3つの壁
データ収集の壁
月次決算の開始が遅れる代表的な要因の一つが、各事業所・支店からのデータ収集です。各拠点が異なるシステムやフォーマットで情報を管理している場合、経理部門は手作業で集計する必要があります。
請求書や領収書などの証憑が期限までに揃わないこともあります。営業担当者の出張が続く時期や、取引先からの請求書送付が遅れた場合、経理部門では、確認や判断に必要なデータが揃わず、処理が停滞する場合があります。こうした待ち時間が積み重なり、締め作業の開始が遅れる要因となります。
システムが統合されていない環境では、各部門が提出するデータに不備があると、確認・修正の手戻りが発生します。この段階でデータ品質を担保できなければ、後工程でさらに時間を要することになります。
承認プロセスの壁
経理部門内だけで完結しない承認プロセスは、月次決算のボトルネックになり得ます。担当者から複数の管理職へと回付される多階層の承認フローでは、各段階で一定の処理時間を要します。
承認者が出張や休暇で不在の場合、代理承認の仕組みがなければ決裁が停滞するおそれがあります。また、各部門への照会・調整が必要な項目があると、さらに時間が延びます。
特定の承認者に決裁が集中する構造も問題です。経理部門だけでなく、複数の事業部門から同時に承認依頼が届く管理職は、優先順位を付けながら対応せざるを得ず、月次決算の承認が後回しになることもあります。
システム・業務プロセスの壁
レガシーシステムが残る環境では、手作業処理が大量に発生します。複数システムのデータを手動で連携し、Excelで集計・加工する作業は、転記ミス・計算ミスのリスクを伴います。
部門ごとに異なるフォーマット・ルールが存在する場合、経理部門は各部門の仕様を理解したうえでデータを統合する必要があります。こうした個別対応は、担当者のスキルと経験に依存し、属人化を招きます。
ミスが発覚すると、確認・修正作業が発生し、締め作業全体が遅延します。手作業が多いプロセスでは、品質担保のためのレビュー工数も増大し、月次決算の長期化につながります。
月次決算を短縮する3つの実践法
2026年版中小企業白書では、労働供給制約社会を背景に、労働生産性の向上に有効な取組が分析されています。AI活用・デジタル化は、業務効率化に加え、付加価値向上にもつながる取組として期待されています[1]。月次決算の早期化においても、手作業や確認待ちを減らし、担当者が判断や例外対応に集中できる業務設計が求められます。
システム統合と自動化で収集時間を削減する
データ収集の壁を解消する有力な手段の一つが、システム統合です。ERPなどで各部門・拠点のデータを一元化できれば、手作業による集計や転記を大幅に減らせる可能性があります。
会計システムと基幹システムの自動連携も重要です。販売管理システムや購買システムからリアルタイムでデータを取り込む仕組みを構築すれば、月初にデータが揃うのを待つ時間を短縮できます。
RPAを活用した定型業務の自動化も有効です。OCRや会計システムなどと連携し、請求書データの転記、定型取引における仕訳作成支援、証憑とデータの照合といった繰り返し作業を自動化することで、経理担当者は例外処理やレビューに集中できます。こうした施策により、データ収集にかかる時間を短縮できる可能性があります。
承認プロセスの見直しで待ち時間を圧縮する
承認フローを簡素化することで、承認・確認待ちの時間を削減できます。多階層の承認が必要な項目を洗い出し、決裁権限を見直すことが第一歩です。金額基準や業務内容に応じて、承認階層を減らせる項目があれば、その分プロセスは短縮されます。
代理承認の仕組みを整備することも重要です。承認者が不在の際に代理者が承認・確認を進められるルールを明確にし、システム上でも代理承認を可能にすることで、承認者の不在による遅延を防げます。
経理部門に一定の判断権限を移譲することも効果的です。ただし、権限移譲は、職務分掌、権限規程、内部統制上の要件を踏まえて設計する必要があります。
事業部門への照会が頻発する項目については、判断基準や確認範囲を明確にしたうえで、経理部門が一定の判断を行えるようにします。これにより、都度の照会や部門間調整を減らし、承認・確認プロセス全体の所要時間を圧縮できる場合があります。これにより、都度の照会や部門間調整を減らしつつ、統制を維持した承認・確認プロセスの運用につなげられます。
業務プロセスの標準化で属人化を解消する
標準仕訳パターンの整備は、仕訳処理の迅速化につながります。よく発生する取引について、勘定科目・補助科目・摘要のパターンを事前に定義しておけば、担当者が迷わず処理できます。
月次決算カレンダーの明確化と運用徹底も重要です。各部門にデータ提出期限を明示し、期限を守る文化を定着させることで、経理部門は計画的に作業を進められます。概算計上や事後調整を活用する方法もあります。ただし、適用範囲や判断基準は、会計方針・内部統制・監査上の要件を踏まえて事前に定める必要があります。
細分化の必要性が低い勘定科目を見直すことも、処理負荷の軽減につながる場合があります。細分化されすぎた勘定科目は、仕訳処理と確認作業の負担を増やします。ただし、科目体系の変更は、会計方針、管理目的、税務・監査上の要件を踏まえて検討する必要があります。こうした業務プロセスの見直しにより、仕訳処理にかかる時間を削減できる可能性があります。
月次決算の早期化では、手順書や締めカレンダーを整備するだけでなく、担当者が必要なルールや過去の判断基準をすぐに確認できる状態をつくることも重要です。社内ナレッジを検索・参照できる環境を整えることで、経理部門への定型的な問い合わせや確認作業を減らし、判断が必要な業務に時間を充てやすくなります。
月次決算短縮を成功させるポイント
現状の可視化から始める
月次決算の短縮に取り組む前に、現状のプロセスを可視化することが重要です。各工程にかかっている時間、待ち時間が発生している箇所、手作業が残っている業務を洗い出すことで、改善の優先順位が見えてきます。
タスクごとの所要時間を計測し、ボトルネックを特定します。データ収集に最も時間がかかっているのか、承認待ちが長いのか、仕訳処理に手間取っているのか。問題箇所を明確にすることで、効果的な改善策を選択できます。
現状把握の段階では、経理部門だけでなく、関連する事業部門や情報システム部門も巻き込むことが重要です。部門横断で課題を共有し、全社的な取り組みとして位置付けることで、改善が進みやすくなります。
段階的に改善を進める
月次決算の短縮では、一度にすべての業務やシステムを変更すると、現場の負担増や運用定着の遅れにつながるおそれがあります。優先順位を付けて、段階的に改善を進めることが現実的です。
第一段階では、最もボトルネックになっている工程に着手します。データ収集に時間がかかっているなら、システム連携や自動化を優先します。承認が遅れているなら、承認フローの見直しから始めます。
第二段階では、第一段階の成果を踏まえて、次の課題に取り組みます。一つの改善が進むと、別の工程がボトルネックになることがあります。継続的にプロセスを見直し、改善を積み重ねることで、自社で設定した締め日短縮の目標に近づけます。
関係部門との連携を強化する
月次決算の短縮は、経理部門単独では実現できません。データを提供する事業部門、システムを管理する情報システム部門、承認を行う管理職の協力が不可欠です。
事業部門には、データ提出期限が月次決算全体に与える影響を共有し、期限を守る運用を定着させます。情報システム部門とは、システム統合や自動化の実現可能性を協議し、施策の優先順位を調整します。
管理職とは、承認フローの見直しや代理承認の仕組みについて合意形成を進めることが重要です。
さいごに
月次決算の早期化を阻む要因には、データ収集、承認プロセス、システム・業務プロセスという3つの壁があります。これらを解消するには、システム統合と自動化、承認プロセスの見直し、業務プロセスの標準化が有効です。
月次決算の早期化は、一度にすべてを変えようとせず、現状を可視化し、ボトルネックから段階的に改善を進めることが成功の鍵です。
月次決算の短縮は、経営判断のスピードを上げ、企業の競争力を高めます。経理部門だけでなく、IT部門・DX推進部門・事業部門が連携することで、月次決算の早期化は現実的な全社改善テーマになります。
月次決算の早期化では、会計システムやワークフローの見直しに加え、締め手順、証憑提出ルール、勘定科目の判断基準、差異確認の観点を部門横断でそろえることも重要です。
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出典
- [1] 2026年版中小企業白書 – 経済産業省
本記事では月次決算の早期化に関する実務的なアプローチを解説しています。具体的な所要日数は企業規模・業種・連結の有無・対象範囲(速報値か確定値か)により大きく異なるため、記事内では自社の現状把握とボトルネック特定を前提とした改善策を示しています。



