2026年7月、Monday.comが600人以上の人員削減を発表しました。理由として同社が挙げたのは、「AI主導の成長戦略を支援するための効率的で焦点を絞った運営モデル」への再編です[1]。この発表により、2026年にAIを人員削減の要因として挙げた企業は21社となりました。
テクノロジー業界では、AI投資やAI活用による業務再設計と、人員構成の見直しが並行して進む傾向がみられます。本記事では、2026年7月までに確認された主要企業の動向と、その背景にある構造的変化を解説します。
AIを人員削減の要因として挙げた企業の全体像
AIを要因として挙げた企業は21社、米テック全体の削減は約14万人
2026年7月25日時点で、AIを人員削減の要因として挙げた企業は21社に達しました[1]。Financial Timesの分析では、2026年に入ってから米国のテクノロジー企業全体で約14万人が削減対象となりました[1]。その中では、AI投資やAI活用による業務再設計を、人員削減の背景として挙げる企業が相次いでいます。このうちAmazon、Oracle、Meta、Microsoftの主要4社だけで約5万人を削減しており、大手企業の再編が業界全体の雇用・人材市場に与える影響は小さくありません。
削減の規模は企業ごとに異なりますが、Monday.comは従業員の約20%、GitLabは約14%の人員削減を実施しました。Oracleも過去1年間で従業員数が約13%減少しており、AI活用を含む事業・組織の変化が背景にあると報じられています[1]。一部企業では、売上成長や高い収益性を維持する中で人員削減が行われています。そのため、足元の業績悪化だけではなく、AI投資の拡大や組織構造の見直しが背景にあるケースもあります。
Financial Timesの分析によれば、AIを人員削減の要因として挙げた企業は、人員削減の発表後30取引日において、Nasdaqを約10%下回る株価パフォーマンスを示したとされています[1]。投資家からは必ずしも肯定的に受け止められていないことが窺えます。各社の説明からは、短期的な収益性だけでなく、AI時代の競争力を意識して組織再編を進める姿勢がうかがえます。
削減の時期と理由の共通パターン
2026年に入ってからの削減は、1月から7月にかけてほぼ毎月続いています[1]。特に4月から5月にかけては、Snap、Microsoft、Google、Meta、Cisco、Cloudflareなど複数企業が相次いで発表しました。この時期は、決算発表や事業方針の見直しと重なる企業も多く、業績報告とあわせて組織再編を公表する動きがみられました。
各社が挙げる理由には共通するパターンがあります。まず、AI関連インフラや研究開発への資源配分を明示する企業が複数存在します。GitLabのCEO Bill Staplesは「AIワークフローからの急増するトラフィックへの対応」のために削減が必要だと述べています[1]。次に「AI導入による業務効率化」を理由とする企業も多く、Coinbaseは、AI活用によって開発業務のスピードが大きく向上しているとの認識を示しています[1]。
さらに注目すべきは、一部企業が人員削減と並行して、AI関連職種への配置転換や採用強化を進めている点です。
企業が直面する組織変革の実態
「AIが人を置き換えない」という主張と現実
多くの企業幹部は、AIが人を直接置き換えるわけではないという表現を慎重に選んでいます。Monday.comの共同創設者Eran Zinmanは「コスト削減や人をAIに置き換えるための決定ではない」と明言しました[1]。同様にMicrosoftのCFOも、役割は「AIに置き換えられていない」と主張しています。
各社の説明を見る限り、AIがすべての削減の単一原因であるとは断定できません。しかし、AI投資の原資確保、AIによる業務効率化、AI時代を見据えた組織再編が、人員構成の見直しに影響しているケースがあることはうかがえます。Salesforceでは、Agentforceの導入によってサポートケース数が減少したことを背景に、カスタマーサポート部門の人員が約4,000人減少したとされています[1]。IBMは2025年、AIエージェントの活用によって人事関連業務の一部を自動化し、約200人分の業務を代替したと報じられました[1]。
スキル構成の転換と求められる人材像
削減の一方で、一部企業ではAI関連スキルを持つ人材の採用や配置転換を強化する動きも見られます。IBMは2024年9月以降、累計15,000人超を削減しながら、AI・ハイブリッドクラウド職の新卒採用を3倍に増やしました[1]。Metaは約8,000人を削減する一方で、約7,000人を新しいAI中心の役割に異動させており、単純な人員削減ではなく、スキル構成の転換を進めていることが分かります。
AtlassianのCEO Mike Cannon-Brookesは「私たちのアプローチは『AIが人を置き換える』ではありません。しかしAIが必要なスキルの組み合わせを変えないふりをするのは不誠実でしょう」と語っています[1]。この発言は、AI時代の組織運営における本質的な課題を表しています。企業が求める人材像は、従来型の専門スキルに加えて、AIツールを活用して生産性を高められる人材へと変化しています。
さいごに
構造的な変化と日本企業の対応
2026年7月までに21社の企業がAIを人員削減の要因として挙げました。Financial Timesの分析では、2026年に米国のテクノロジー企業全体で約14万人が削減対象となっています。こうした動きは、AI活用を前提とした組織設計や人材構成の見直しが進んでいることを示しています。
帝国データバンクの調査では、生成AIの活用拡大に伴い、業務効率化への期待が高まる一方で、専門人材・ノウハウ不足や、活用すべき業務の範囲を課題として捉える企業が多いことが示されています[2]。また、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」では、2040年に事務職で437万人の供給超過が生じる一方、AI・ロボット等の利活用を担う人材では339万人の不足が生じる可能性があると推計されています[3]。
持続可能な成長への鍵
企業幹部の多くは「AIが人を置き換えるわけではない」と慎重な表現を使いますが、AI投資の原資確保、AIによる業務効率化、AI時代を見据えた組織再編が、人員構成の見直しに影響しているケースがあることはうかがえます。しかし同時に、一部企業ではAI関連スキルを持つ人材の採用や配置転換を強化する動きも見られ、AIを活用して業務を再設計できる人材の重要性が高まっていることがうかがえます。
日本企業にとっても、この変化は見過ごせません。グローバル競争力を維持するためには、AI活用が重要な経営課題です。ただし、その過程で従業員のスキル転換と組織能力の強化を同時に進めることが、持続可能な成長への鍵となるでしょう。AI活用を進める企業にとって、人材育成・配置転換・業務設計を一体で進めることが、重要な経営課題になっています。
※本記事は2026年7月25日時点で公表されている情報をもとに作成しています。企業の人員計画や組織方針は、その後の発表によって変更される可能性があります。
出典
- [1] The running list major tech layoffs in 2026 where employers cited AI – TechCrunch
- [2] 生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月) – 帝国データバンク
- [3] 2040年の就業構造推計(改訂版)について – 経済産業省



